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技と想いをつなぐ、鎌倉彫塗師直伝の「後藤漆藝」金継ぎ教室
2023.08.31

藤沢で生まれ育って数十年。ぷらっと、街歩き・山歩きが趣味のまりっぺです。
海から近くサーファーの姿も目にすることが多い鵠沼エリアは、迷路のような路地が住宅街を張り巡り、赴くままに歩いていると、時々、想いもしない出会いに引き合わせてくれます。

今回は、小田急線本鵠沼駅から2分ほど歩いた古民家で、鎌倉彫塗師直伝の「金継ぎ教室」がひっそり開催されているという情報をキャッチ。何やら職人気質の教室で、簡易的な合成樹脂ではなく天然の本漆(うるし)を使用し、ヘラなどの道具は受講者自ら仕込む徹底ぶり。初心者から本格的な金継ぎを学べるということで、早速、教室を訪ねてみることにしました。

受講者が仕立てる前の「金継ぎの道具セット」。しなりのよいヘラ(左側3本)は木曽ヒノキを使用し、金を蒔(ま)く際に使う真綿は養蚕の産地で名高い近江産を用いるなど、職人目線の厳選された数々

 

ウクレレづくりをきっかけに、家具・鎌倉彫・漆職人の道を進む

玄関に飾られたウクレレと「後藤漆藝」と書かれた申し訳程度の表札を目印に、どんな職人さんが現れるのかと背筋を正して玄関を開くと、漆職人で鎌倉彫塗師の後藤信治さんが気さくな笑顔で迎え入れてくれました。

その経歴は興味深く、サラリーマン時代に趣味で始めたウクレレづくりをきっかけに、家具職人へ転身。37歳で鎌倉彫伝統工芸士に師事し、2010年に「後藤漆藝」を設立しました。その後、オリジナルの漆器や箸、家具づくりを行いながら、鎌倉彫創作展にも出品。自分らしい作品を模索して制作した、漆で仕上げたサーフボードは2013年に一般審査員特別賞を受賞。東京2020大会を前に五輪の輪をイメージして彫ったスケートボードは、2018年に鎌倉市長賞を受賞するなど、伝統工芸に新たな風を吹き込んでいます。

改めて、金継ぎ教室開催のきっかけを伺うと、「鎌倉彫や漆器で欠かせない漆は、陶器や磁器などを修復する日本伝統の“金継ぎ”と通じるところがあります。数年前から創作活動の合間に、本漆を用いた教室を開くようになりました」と笑顔で。

鎌倉彫の技法を用いて、実用品として製作したスケートボードを手にする後藤信治さん。2014年には鎌倉彫技能士を習得して活動の幅を広げています

 

塗料の役割だけではない!縄文時代から磨き上げられた多彩な漆芸技法

本日の受講者は、陶芸作家さんなどモノづくりの道で活躍する女性4名。それぞれ持ち寄った陶器や磁器は、夫にプレゼントした自作の茶碗をはじめ、祖母から譲り受けた小皿セット、母から二十歳のお祝いに贈られた湯呑などさまざま。皆さん、愛用品に欠けやヒビが入ったものの捨てられず、こちらの教室に出会うまで、大切に保管されていたそうです。

修復作業の工程で、破損した部分を直すのに用いられるのが、塗料のイメージがある漆。「小麦粉を混ぜれば接着剤に、炊いたお米と木粉を混ぜればパテになります。日本では縄文時代から漆が使われ、歴史とともに漆芸技法が確立され、今後の未来においても変わらず残ると思います」と力強く語る後藤さん。より多くの方に漆の魅力を広めるため、自身のSNSを使って作業工程の動画を配信するなど、後継者づくりも念頭においています。

受講者自身が仕立てたヘラを使い、本漆を扱います。後藤さんは素手ですが、手がかぶれないよう受講者はビニール手袋をつけての作業。後藤さんのアドバイスにメモをとりながら、眼差しは真剣

 

アトリエの棚には、料理で使うような梅酢や白玉粉、小麦粉なども陳列。古くから受け継がれる天然素材を用いた技法を大切にしています

“じっくりと、しっかりと”漆の仕上がりを左右する乾燥技術

最近は、1日で完成する簡易的な金継ぎもありますが、本物志向の後藤さんが手がける教室では、月1回の教室で最短でも完成まで7~8回必要です。「本漆は乾燥に時間がかかりますが、自然由来のため安全性が高く、通常の食器として利用できます」とのこと。手間をかける分、時間がかかり、その技術の奥の深さも感じます。

ちなみに鎌倉彫職人が一人前になるには5~7年の修業が必要で、中でも漆を乾かす技術は難易度が高く、季節だけでなく、その日の天候でも大きく左右されます。また、彫り方によっても微調整が必要で、「息を表面に吹きかけて、色の変化を見て乾き具合を判断することもあります。乾き始めなら『青息がかかる』と表現するなど、漆の微妙な変化を察知できるよう経験と勘が不可欠です」。

絵の具などとは異なり、空気中の水分と反応することで硬化する漆。最適環境は気温約20度・湿度約70%とされています。乾燥に失敗すると、写真のように色がぼけたり、「縮み」と呼ばれるムラのある仕上がりに

 

金継ぎの醍醐味でもある、仕上げの粉蒔き。後藤さんの教室では、定番の金をはじめ、銀・チタン・スズから選択。筆や真綿を使って、優しくそっと乗せるようにチタンを蒔いています

 

受講生が銀を蒔いて仕上げた完成作品。祖母愛用の小皿が、次の世代に受け継がれていきます

 

“閑静”の中で塗りに向き合い、日々鍛錬して高みを目指す

後藤さんの人柄もあって、和やかな空間に包まれる金継ぎ教室。一方で、普段は創作活動の場として、アトリエに飾られた振り子時計の音が響くほどの静けさが広がります。

多彩な経歴を持ち自らを“飽きっぽい”と話す後藤さんですが、今後の目標に、2年ほど前に再開した剣道と漆芸を融合した作品づくりを挙げます。「漆を扱う所作には“静けさ”があると思います。塗りの動作はホコリが舞わないように、忍びの動きをイメージして音もたてずに流れるように。心を落ち着かせ、閑静の中で塗りに向き合うことで、より深い人生観も身に着けられると思います」と、まるで武士のよう。先人の知恵と技術を受け継ぎ、自然を相手に高みを目指し、日々鍛錬して技を磨く。今日も、唯一無二の作品づくりに余念がありません。

銀白色の錫(スズ)を施した後藤さん制作の中椀 【錫蒔塗】。オリジナルの漆器や箸、曲げわっぱなどは、生活になじむツヤを抑えた控えめな佇まい。使い込むほどに愛着がわき、塗り直しも可能

 

後藤漆藝(ごとうしつげい)

藤沢市鵠沼桜が岡4-14-3(小田急線本鵠沼駅から徒歩約2分)
※アトリエでは作品の販売は行っていません
HP:https://gotoshitsugei.mystrikingly.com/
漆塗オリジナル商品:https://gotourushi.theshop.jp/
最新情報や漆芸の技法などはインスタグラム@shinchan_urushiでチェックを。

【金継ぎ教室】
開催:月1回 13:00~15:00/現在、合計6クラス
料金:1回3500円(道具代などは別途)
※作業工程が多いため、小皿の金継ぎなら8回以上の受講が必要
※定員に達しているクラスもあり、空き状況で受講者を募集
※参加希望は、メール(goto_urushi@icloud.com)で問い合わせを

まりっぺ
学生時代は江ノ電と自転車を乗りこなし、海でたそがれていました。
一男一女を育てる親になり、改めて、仕事や暮らし、遊びにちょうどいい湘南エリアの魅力を感じています。子供のころと変わらない昔ながらの商店や個性あふれるショップ、四季折々の地元食材や目新しいグルメなど、なつかしさと新しさが共存する空気感が心地いい~。