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湘南に暮らす
はじめまして。
藤沢菓子組合 組合長をしています岡崎です。
これから「お菓子」をテーマに皆様の暮らしのちょっとしたエッセンスになるようなお話を連載していきたいと思っています。
さて、最初の回のテーマは「和菓子」です。とくに夏にうれしい「水羊羹」をメインにお話させていただきます。
夏の和菓子「水羊羹」
夏といえば「水羊羹」という方も多いかもしれません。でも実は、いまの形での水羊羹は戦後にできた比較的新しい和菓子なのです。それまで水羊羹は練ようかんの寒天が少ないものを「水羊羹」と呼んでいました。いまよりもずっと粘度が高く、冷涼感はあまりありません。対して今の「水羊羹」はあんこの量が少なく、水が多いものを言います。この違いが生まれた理由はズバリ、冷蔵庫が普及したからなのです。
冷蔵庫と和菓子の関係
昔は、砂糖やあんこを減らすと和菓子がすぐ痛んでしまうので水を増やすことができませんでした。当時の「水羊羹」を知る方からすると、今の水羊羹はあんこ味のゼリー的なものという印象になるかもしれません。
家庭用の冷蔵庫のうち、最初に普及し始めたのは大きな氷を入れるタイプのもの。この普及から考えると、いまの形の水羊羹は生まれて65年くらいのお菓子と言えます。
日本の「羊羹」出生の秘密
羊羹自体は昔、中国から入ってきた羊の羹(あつもの)で、読んで字のごとく羊の肉を煮固めたスープ状の料理でした。羊肉がゼラチンで固まった料理を見て、当時の宮廷料理人は思案したと思います。新しい異国の料理として、天皇陛下に宮廷料理として召し上がっていただきたいが、日本は四つ脚を食べないのでオリジナルの「羊羹」を出すわけにはいかない。そこでアレンジしたわけですが、羊肉に似た豆の色の「小豆」を使い、ゼラチンで固めるところを寒天で固め、全く違う「羊羹」が生まれたというわけです。
彩りは、桜の葉で
さて、この時期の水羊羹。彩りとして葉を添えることが多いです。スーパーで売ってる水羊羹はビニールの代用品を使ってる場合がほとんどだと思いますが、たいていの和菓子屋は生の桜の葉っぱを使っています。梅雨時期なのだから、紫陽花の葉っぱを使えば…と思う方もいるかも知れませんが、実は紫陽花の葉っぱには青酸配糖体系の毒があり、お菓子に使うことはできないのです。
和菓子屋で使われる桜の葉は、主に若葉で作る塩漬けです。丸寿では伊豆の松崎の桜を使っていますが、ここの桜は葉を取るための桜畠があり葉っぱが取りやすいように低い位置に木が連なっていて、花の時期は桜の枝と同じ目線で花見ができるという変わった場所です。
知られざる「くず桜」の秘密
水羊羹と同じ時期の夏の和菓子というと、「くず桜」も定番です。
くず桜は生の桜の葉でくずまんじゅうをくるんだもので、くずは葛の根のデンプンからとった「葛粉」から作られますが、くずは「接触冷感」で、実際の温度は低くなくても口にいれると冷たく感じる。そんな食性を持った食べ物で、夏にぴったりの和菓子です。
不思議なもので、上新粉で作ったものは冷たく感じ、小麦粉でつくったものは暖かく感じるという特徴があります。
くずは温度変化に弱く、ちょうどいい粘度を作るのに熟練の経験が必要です。熱すぎるとくずはやわらかくなり形になりにくく、冷たすぎるとかたくて形にはなりやすいですが、冷やしたときに白くなるという厄介なものです。和菓子は基本的に冷蔵庫に入れられません。冷蔵庫が発明する前から作られている和菓子なので、冷蔵庫の冷気で食感や色が変化してしまうのです。
この時期に和菓子屋で売っている「くず桜」の裏には、熟練のワザが光ってるんだなと思って、ぜひ作りたての和菓子をその日のうちに召し上がってみてください。
和菓子屋が「久助」といえば・・・
最後に小話をひとつ。和菓子屋の符牒で、壊れたせんべいなどの規格外製品を久助(きゅうすけ)と呼びます。なぜかというと、奈良県・吉野産の良質な本葛の葛粉が「久助葛」として流通していて、葛といえば「久助」が代名詞でした。そこでどこかの和菓子屋が規格外品=クズ=くず=久助と呼び出したと言われています。
「おいおい久助になっちまったじゃねぇか!」「すいやせん!」そんな親方と丁稚の掛け合いが、江戸から令和まで変わらず続けられていると思うと、ちょっと感慨深い気がしますね。
岡崎秀一(おかざきしゅういち)
東京製菓学校を経て神田 さゝま にて修業、
家業である「御菓子処 丸寿」入社して現在に至る。
2014年度より 藤沢菓子組合 組合長
ふじさわ観光名産品協議会 副会長
2017年度より 藤沢食品衛生協会 副会長
御菓子処 丸寿
http://www.cityfujisawa.ne.jp/~meisan/j13.html
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